失われた仮登記:農地を巡る権利関係の泥沼化

所有者不明土地の発生要因の一つとして、
「仮登記」のまま長年放置されているケースが挙げられます。

  1. 農地特有のハードル

特に農地において仮登記が多いのは、
農地法上の制約が原因です。
農地の所有権を移転するには、
農地法第3条(または第5条)に基づく農業委員会の許可が必要ですが、
買い手に「農家資格」がない場合、
正式な所有権移転登記(本登記)ができません。
そのため、売買代金は支払ったものの、
将来的な本登記を予約する形での「仮登記」に留め、
そのまま放置されてしまうケースが多発しています。

  1. 世代を超えて積み重なる権利

こうした土地は、
相続が発生しても名義が書き換えられないまま、
何代にもわたって放置されます。
中には、
一つの土地に対して複数の仮登記が何重にも重なって記載されているケースもあり、
登記簿上の日付が最も新しい人物が現在の権利者(仮登記名義人)となりますが、
実態を把握するのは非常に困難です。

  1. 開発計画と投機の影響

背景には、かつての開発ブームも影響しています。
国道建設などの公共事業の情報を察知した人々が、
補償金や値上がりを期待して農地を買い漁った時期がありました。
しかし、道路計画の頓挫や買い手の資格不足により正式な登記ができず、
仮登記のまま「塩漬け」状態になった土地が、
現在も各地に残されています。

  1. 風化する経緯と解決の難しさ

年月が経てば経つほど、
当時の売買の経緯や関係者の素性は分からなくなります。
「なぜこの人の名前がここに載っているのか」という根本的な理由を遡ることができず、
権利関係の整理は事実上不可能に近い状態に陥っています。

所有者不明土地問題の解消には、
こうした過去の負の遺産である「仮登記」の整理が大きな課題となっています。

農地法3条とは
「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。」
と規定されている条文です。

この農業委員会の許可基準を満たさなければ、
完全なる所有権移転は行われません。

市街化区域内では、
基本は誰でも購入することは出来ますが、
市街化調整区域では、
農地は誰にでも買えるものではありません。
なぜなら、
市街化調整区域は、
市街化を抑制すべき区域
だからです。
農地を守るという側面もありますが。
完全なる所有権移転を行うためには、
定められた条件を満たさないといけません。
例えば、現在も農家をしているという...
農家資格などです。

例えば、
住宅とそれに隣接する畑や田などを購入するとなったときに行うのが、
農地の仮登記です。
宅地は普通に所有権移転出来ます。
畑や田などの農地は、
農地法第3条の許可を前提条件に仮登記しますが、
農家資格などの一定の要件を満たさなければ、
所有権移転登記が出来ません。

平成の大合併以前の旧浜松市は、
市街化区域が3割、
市街化調整区域が7割でした。
今は山間部との合併もあり、
市面積151,117.0haの内
都市計画区域が、46,768haで、
その内の市街化区域が、9,788.7haで、6.48%
市街化調整区域が、36,979.3haで、24.47%
と圧倒的に市街化調整区域の方が多く、
営業をしている土地がらもあり、
住宅に農地が隣接していて、
それも取引の対象となるといった事例も多くみられます。

取り引きをお手伝いさせて頂いた中で
一番仮登記が多かったのが、
4名の方が仮登記として登記されていたという事例です。
第3条の許可が下りることが前提ですので、
こういったことが起こります。
一番期日の新しい方が、現在の仮登記名義人となります。

最終的には、
この仮登記相続登記ということもあり得るのかもしれません。

 記事の要約(MECE

- 何が問題か

  - 農地で「仮登記」のまま放置された事例が多く、
所有者不明土地の一因になっている。
とりわけ市街化調整区域は転用制限が強く、
権利関係の整理が進まない。

- なぜ起きたか(構造)

  1) 農地法の許可制

     - 農地の所有権移転・転用には農地法3/5条許可が必要。
買い手に農家資格がない・立地基準を満たさない等で本登記ができず、
売買予約の保全として仮登記のまま放置。

  2) 歴史的背景

     - 開発ブーム時に公共事業(道路等)の補償・値上がり期待で取得
計画頓挫や資格不足で本登記ができず「塩漬け化」。

  3) 世代を超える未整理

     - 相続でも名義書換えが行われず、複数の仮登記が何重にも積み重なる。
経緯の風化で実態把握が困難に。

- 何が難しいか

  - 仮登記名義人の探索・相続人特定が難航、
農地法許可の見込み不明、
関係人の同意収集・抹消登記の実行に時間とコストが嵩む。

- 含意

  - 所有者不明土地問題の解消には、過去の「仮登記」の整理が不可欠。
法制度(所有者不明土地関連法、民法改正)と専門家連携による実務対応が鍵。

この動画から得られること(Learning Outcomes

- 仕組みの理解

  - 仮登記(本登記予約・権利保全)の役割と、農地法・都市計画法が生むボトルネック

- 登記の読み解き方

  - 登記簿(表題・権利部)、閉鎖登記簿、仮登記の先後順位、複数仮登記の整理(最終仮登記の権利状態)

- 整理の実務フロー(標準)

  1) 調査:登記簿・公図・地籍・旧土地台帳・農業委員会台帳・固定資産台帳 

  2) 関係人特定:仮登記権利者・相続人探索、公示要録・住基連携、戸籍連続 

  3) 許認可見込み:農地法許可の可否、立地基準・前例調査、事前協議(農業委員会都市計画建築指導) 

  4) 方針確定:本登記へ進める(許可取得本登記)
/進めないなら仮登記抹消(承諾書取得 or 訴訟) 

  5) 代替策:農地バンク・賃貸・相続土地国庫帰属制度の検討

- 法的ツールと留意点

  - 仮登記抹消(承諾抹消/本登記請求権の消滅時効に基づく抹消判決) 

  - 不在者財産管理人・相続財産管理人の選任申立て 

  - 所有者不明土地関連法(利用円滑化法、2024相続登記義務化)、共有物関係の新制度活用

- コスト・期間の目安

  - 調査・測量・申請・訴訟の段階ゲートと予算上限の設定、失敗時の撤退ライン

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例え話

仮登記が重なる農地は「何枚も重ね貼りされた古い地図」のようなものです。
新しい地図を描くには、
古い紙(過去の仮登記)を一枚ずつ丁寧に剥がし、
道(許認可ルート)を確かめながら張り替える必要があります。
焦って破れば、
道筋は余計に見えなくなります。

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専門家としての付加価値(実務の勘所)

- 可否の早見表

  - 調整区域×非農家×耕作放棄=難度「高」
/ 分家住宅・自己用で前例あり=「中」
/ 市街化区域×地目変更=「低」

- 事前協議の作法

  - 位置図・公図・地目・現況写真・希望用途をA4一枚の案件概要に。
農業委員会都市計画建築指導の順にヒアリング

- 証拠の整備

  - 現況写真(四季・作付・農機稼働)、耕作委託・営農計画、境界確定(筆界特定)を時系列で整理

- 抹消の現実解

  - 承諾が得られない仮登記は、請求権の消滅時効・契約無効・権利不存在確認に基づく抹消訴訟。送達困難なら公示送達・管理人選任へ

- 代替ルート

  - 農地中間管理機構(農地バンク)への貸付、相続土地国庫帰属制度、保全・再生補助の活用

視聴後アクション

- きょうやること(30分)

  1) 登記簿(現/閉鎖)・公図・地籍図を取り寄せ、仮登記の件数・順位・名義人を一覧表にします。 

  2) 現地の写真(四方向・全景・作付)を日付入りで撮影します。

- 今週やること

  3) 農業委員会・都市計画課・建築指導課へ案件概要1枚で事前相談します。 

  4) 仮登記名義人の所在・相続人を戸籍・住基で探索します。

- 今月やること

  5) 許可見込み別に方針決定:本登記へ(許可取得)/抹消へ(承諾書 or 訴訟)。
費用上限と段階ゲートを設定します。 

  6) 代替策(賃貸・売却・農地バンク・国庫帰属)も同時に検討します。

積み重なった仮登記でも、
法と手順で丁寧にひも解けば道は開けます。
今日から一歩ずつ整理を始めましょう。

税理士法人 A to Y
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