遺留分(いりゅうぶん)の具体的な計算方法について詳しく解説します。

  1. 遺留分侵害額請求権とは

遺留分とは、
法定相続人に最低限保証されている相続財産の受け取り分のことです。
前回の動画では「権利の概要」を説明しましたが、
今回は実際に「いくら請求できるのか」という計算方法に焦点を当てます。

よくあるトラブルとして、
不当な内容の「遺産分割協議書」に言いくるめられて印鑑を押してしまい、
法定相続分を受け取れなかったケースがあります。
そのような場合でも、
後から「遺留分」を請求できる権利(遺留分侵害額請求権)を
行使できる可能性があります。

  1. 遺留分を請求できる人

遺留分を持つのは、
以下の「遺留分権利者」に限定されています。

  1. 配偶者
  2. 直系卑属(子・孫など)
  3. 直系尊属(父母・祖父母など)
    ※被相続人の兄弟姉妹やその子(甥・姪)には遺留分はありません。
  1. 遺留分相当額を算出する4つのステップ

遺留分の計算は複雑ですが、
大きく分けて以下の4つのステップで行います。

ステップ:個別の遺留分割合を計算する
まず、各相続人が持つ「遺留分の割合」を確認します。

  • 原則として、法定相続分の2分の1が遺留分となります
    (例:法定相続分が1/2なら遺留分は1/4)。
  • ただし、相続人が直系尊属(親など)のみの場合は、
    例外的に法定相続分の3分の1となります。

ステップ:基礎財産を計算する
遺留分の計算対象となる「基礎財産」を算出します。
これは通常の相続税評価とは異なります。

  • 計算式:
     相続開始時の財産 + 生前贈与財産 - 相続債務(借金や葬儀費用など)
  • 生前贈与の扱い:
     相続開始前1年間の贈与だけでなく、
    遺留分権利者に損害を与えることを知って行われた贈与や、
    相続人に対する過去10年間の特別な贈与(婚姻や住宅資金など)も
    加算対象となる場合があります。

ステップ:遺留分額を計算する
ステップで出した「基礎財産」に、
ステップの「個別の遺留分割合」を掛け合わせます。

  • 計算式: 基礎財産 × 個別の遺留分割合

ステップ:遺留分侵害額を特定する
最後に、実際に請求する金額(侵害額)を算出します。

  • 計算式: 遺留分額 - (相続で得た財産 + 特別受益の額など)
    相続人が既に一部の財産を受け取っていたり、
    生前に多額の援助(特別受益)を受けていたりした場合は、
    その分を差し引いた金額が請求額となります。
  1. 実務上の注意点とアドバイス

遺留分の請求は、
実務的に非常に手間と時間がかかります。
山内氏が現在扱っている事例でも、
過去10年分の法人税申告書を遡り、
株式の移転が贈与にあたるかどうかを精査するなど、
膨大な資料が必要となっています。

  • 素人判断は危険:
     法的根拠の有無を巡って争いになるため、
    当事者同士での解決は困難です。
  • 期限がある:
     遺留分の権利行使には期限(相続の開始および侵害を知った時から1年など)があります。
  • 専門家へ相談:
     税理士は計算のサポートはできますが、
    法的な紛争解決は弁護士の領域です。
    心当たりのある方は、
    早めに弁護士や専門ルートを持つ税理士に相談することをお勧めします。

まとめ

遺留分を巡る争いは、
兄弟仲や家族関係が悪化している場合に「意地」のぶつかり合いになりやすく、
精神的・時間的なロスも大きくなります。
トラブルを防ぐためには、
被相続人が生前に
「誰が面倒を見てくれたか」
「誰に何を残すべきか」
を公平に配慮し、
適切な遺言書を作成しておくことが何より大切です。

要約

- 遺留分侵害額請求権の位置づけ
  - 遺留分は一定の相続人に保障された最低取り分。
 侵害された場合は金銭で回復(2019年改正民法)。

- 請求できる人
  - 配偶者、直系卑属、直系尊属のみ(兄弟姉妹は対象外)。

- 計算の4ステップ
  - ①個別遺留分割合:原則「法定相続分の1/2」。
          直系尊属のみが相続人のときは「法定相続分の1/3」。
  - ②基礎財産=相続開始時の財産+贈与財産−債務。
  贈与は「相続人へは原則10年内」「相続人以外へは原則1年内(害意贈与は例外算入)」。
  - ③遺留分額=基礎財産×個別遺留分割合。
  - ④侵害額=遺留分額−(実際に得た相続財産+特別受益)。

- 実務上の要点
  - 証憑収集と贈与の取扱いが難所。
 行使期限は原則「侵害を知って1年、開始から10年」。
 税理士は算定支援まで、紛争は弁護士領域。

 

この動画から得られること

- 制度理解:権利の範囲、請求対象、金銭請求化(改正民法)と優先順位
- 計算手順:4ステップの実装(割合基礎遺留分額侵害額)
- 贈与の算入:相続人10年/非相続人1年・害意例外、特別受益との関係
- 評価と証拠:評価時点・資料一式・相殺の考え方
- 期限と手続:1年・10年の時効、内容証明・交渉〜訴訟の流れ
- リスク管理:家族関係の悪化回避、遺言・生命保険・生前対策の活用

 

専門家の付加価値

- 算定の基本式
  - 基礎財産=相続開始時の純資産+算入対象贈与−被相続人債務
  - 個別遺留分割合=法定相続分×原則1/2(直系尊属のみは1/3
  - 侵害額=遺留分額−(取得済財産+特別受益)

- 贈与算入の運用
  - 相続人への贈与:原則10年内を算入
  - 相続人以外への贈与:原則1年内、害意贈与は期間超えて算入

- 優先弁済の順序
  - 受遺者受贈者(新しい贈与から遡り)/各人の受益限度まで

- エビデンス一覧
  - 預金・証券残高、
 贈与契約・通帳、
 保険金支払通知、
 固定資産評価、
 株式評価資料、
 相続関係説明図

- 注意点(実務)
  - 相続税評価と遺留分算定の基礎は別物(評価時点・債務範囲の差異に注意)
  - 葬儀費用は原則「遺留分の債務」に含めない取扱いが有力(地域実務は要確認)

 

例え話

遺留分は「非常口」にあたります。
建物(遺産分割)がどのような間取りでも、
最低限の出口(取り分)は確保される設計です。
非常口の幅(割合)と経路(算定手順)を間違えないことが
生死(権利保全)を分けます。

 

視聴後アクション

- 1. 人を確かめる:相続人全員の関係図(誰が遺留分権利者か)をA4一枚で作る
- 2. 財産をそろえる:相続開始時点の資産・負債、過去10年の贈与・援助の記録を一覧化
- 3. 試算する:4ステップで概算し、侵害の有無と規模を把握
- 4. 証拠を固める:通帳・契約書・評価資料・保険金通知をフォルダ分け
- 5. 期限を守る:侵害を知ってから1年以内に内容証明で通知(ドラフトは専門家確認)
- 6. 方針を決める:交渉/調停/訴訟の選択肢を比較し、コストと期間を整理
- 7. 予防策:遺言作成、保険の活用、死因贈与契約など生前設計を検討

 

運用の勘所

- 交渉順序と限度:受遺者受贈者(新しい順)/各人の受益限度までが原則
- 証拠の粒度:贈与は入出金の連続性・資金拠出者・目的(生活資金/資本性)の三点で立証
- 価額時点:原則「相続開始時点」の価額で平準化(市場変動の影響を排除)
- 文書化:内容証明は「権利者・相手方・金額・根拠・期限」を明記。感情表現は排し事実を淡々と
- 予防設計:遺言+付言事項、生命保険の受取人設定、死因贈与・負担付贈与の整合で火種を最小化

 

遺留分は「最低限の安全装置」です。
数式に落として事実で整えれば、
感情対立を小さくできます。

 

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