超高齢社会の日本において、
平均寿命と健康寿命の差、
つまり「意思はあるが体が自由に動かない期間」をどう過ごすかは、
相続や老後対策において非常に重要なテーマです。
今回は、意外と知られていない「財産管理委任契約」の内容と、
成年後見制度との違いについて解説します。

  1. 財産管理委任契約とは何か

財産管理委任契約とは、
加齢による身体能力の低下(手の震えで字が書けない、足腰が弱く銀行に行けないなど)に備え、
自分の代わりに財産管理や日常生活の事務を代理してもらう契約です。

具体的には、
銀行での入出金手続き
、介護保険や福祉サービス、
医療機関の利用に関する契約手続きなどを委任することができます。

  1. 成年後見制度との「4つの大きな違い」

「後見制度で十分ではないか」と思われる方も多いですが、
財産管理委任契約には後見制度にはないメリットと注意点があります。

本人の判断能力

  • 後見制度:
     認知症などで本人の「判断能力が不十分」になった後に有効となる制度です。
  • 財産管理委任契約:
     本人に「判断能力がある」ことが前提です。
    意思ははっきりしているが、
    身体的な理由で代行が必要な場合に利用します。

柔軟性

  • 後見制度:
     法律に基づく公的な制度であるため自由度が低く、
    家庭裁判所や後見監督人の承諾が必要な場面が多くあります。
  • 財産管理委任契約:
     民間同士の契約であるため、
    「何をお願いするか」を自由に決められます。
    「銀行手続きだけ」「介護契約だけ」といった部分的な委任も可能です。

監督の有無

  • 後見制度:
     裁判所や監督人が後見人の活動をチェックします。
  • 財産管理委任契約:
     あくまで当事者間の合意に基づいた個人契約のため、
    外部の公的な監督は入りません。
    その分、信頼できる相手を選ぶことが重要です。

金融機関・医療機関などの対応

  • 後見制度:
     民法に規定された法的地位があるため、
    ほぼすべての機関が対応してくれます。
  • 財産管理委任契約:
     本人と受任者の私的な契約に過ぎないため、
    金融機関や医療機関(手術の同意など)によっては、
    「本人でないと認められない」と断られるケースが稀にあります。
    事前に利用予定の機関へ確認しておくのが無難です。
  1. 「将来のボケ」に備えたスムーズな計画を

財産管理委任契約は便利な制度ですが、
本人の判断能力が失われれば(認知症が進行すれば)、
いずれはこの契約だけでは限界がきます。

そのため、実務上は「財産管理委任契約」から始まり、
判断能力が低下した後は「任意後見制度」へスムーズに移行できるよう、
セットで計画を立てておくのが理想的です。
受任者(代理人)を同じ人にしておけば、
生活の変化を熟知した人が引き続きサポートを継続できます。

  1. 若い世代や身体障がいのある方にも有効

この契約は高齢者だけのものではありません。
交通事故で身体が不自由になった場合や、
難病などで麻痺が出た場合でも、
本人の意識がはっきりしていれば活用できます。
年齢に関わらず、
自らの意思を尊重しつつ周囲のサポートを正式に受けるための有効な手段となります。

結論

財産管理委任契約は、
本人の判断能力があるうちに、
身の回りの手続きを信頼できる人に託すための非常に柔軟な仕組みです。
「銀行に行けなくて困っている」
「自分では書類が書けない」
といった悩みを抱える前に、
将来の見通しを立てて活用を検討することをお勧めします。

要約

- 定義と目的
  -
財産管理委任契約は、本人の判断能力があるうちに、
 銀行手続や介護・医療関連の事務を第三者へ委任する私的契約。
 身体機能低下に伴う実務を円滑化する仕組み。

- 成年後見制度との4つの相違
  -
判断能力の前提:後見は「判断能力が不十分」後に発動/委任は「判断能力がある」前提で利用。
  -
柔軟性:後見は公的・手続厳格/委任は民間契約で範囲を自由設計(銀行のみ等の部分委任可)。
  -
監督:後見は裁判所・監督人がチェック/委任は公的監督なし(信頼とガバナンス設計が要)。
  -
機関対応:後見は概ね全国共通で受理/委任は運用差があり、金融・医療等で事前確認が必要。

- 実務上の最適解
  -
将来の認知症等を見据え、財産管理委任契約で「今」を支えつつ、
 判断能力低下時は任意後見へ移行する二段構えが合理的。
 受任者を同一人にして連続性を確保。

- 対象者の広がり
  -
高齢者のみならず、若年層の事故・難病等で身体機能に制約があるが意思明瞭な方にも有効。

- 結論
  -
判断能力があるうちに、信頼できる人へ手続を託す柔軟な手段。
 困る前に設計し、公証・運用の備えまで含めて前倒しで準備することが肝要。

 

本動画のポイント

- 財産管理委任契約の使いどころと、成年後見との4つの相違
-
委任任意後見へつなぐ契約設計(見守り契約・死後事務委任・遺言との併用)
-
金融・医療機関で断られないための事前確認と書類整備
-
横領・トラブルを防ぐ監督と証跡づくり(ガバナンス設計)

 

この動画から得られること

- 制度理解:委任と後見の適用時期・権限・監督・機関対応の違い
-
設計ノウハウ:委任の範囲設計、公正証書化、代理権目録の作り方
-
リスク管理:不正防止の監督体制、通帳分離、定期報告の仕組み
-
実務段取り:金融・医療・介護先への事前確認項目と提出書類
-
将来設計:任意後見への移行手順と関係書類のひな形構成
-
使い分け:家族信託・遺言・見守り契約・死後事務委任との役割分担

 

専門家の付加価値(実務テンプレート)

- 契約設計の流れ
  -
目的の明確化:何を委任するか(銀行/支払/介護契約/入退院手続 等)
  -
受任者選定:信頼・事務能力・利益相反の有無・代替受任者の確保
  -
公正証書化:委任契約+代理権目録+報告義務条項+解任条項
  -
運用ルール:通帳・カード分離、立替精算ルール、月次報告、レシート保存

- 金融・医療・介護の事前確認(推奨)
  -
金融:各行の委任状様式、印鑑・本人確認、ネットバンキングの扱い、ATM限度
  -
医療:手術同意の取扱い(施設基準差)、入退院手続、医療費支払方法
  -
介護:契約者欄の委任可否、代理権表示、利用者負担の支払方法

- ガバナンス(不正防止の勘所)
  -
二重承認:一定金額以上は家族等の同意を要件化
  -
証跡:月次収支報告+通帳コピー添付+領収書原本保管
  -
監督:第三者による四半期レビュー、年次で専門家点検

- 任意後見への接続
  -
事前に任意後見契約を公正証書で締結判断能力低下時に監督人選任申立発効
  -
受任者を共通化し、情報・口座・契約を継続運用

- 家族信託・遺言との使い分け
  -
委任:日常の事務と支払実務を迅速化
  -
家族信託:資産承継・運用の枠組みを設計(不動産・多額資産向け)
  -
遺言:死亡後の承継指定
  -
併用で死角を減らす

- 費用・期間の目安(個別差あり)
  -
公証費用:財産管理委任契約・任意後見ともに数万円程度が一般的(条項・通数で変動)
  -
任意後見監督人:就任後は月額報酬が発生するのが通常(地域・事案で差)

 

視聴後アクションの解説

- 1枚で整理する
  -
委任したい事務を箇条書きにし、優先度を付けます。
 これが契約条項の下書きになります。

- 受任者候補を決める
  -
信頼・時間・事務能力の3点で候補を2名選び、役割と連絡手段を合意します。

- 事前確認の電話をする
  -
使う銀行・病院・介護事業者に「委任で可能な手続」を確認し、必要書類をメモします。

- 公証役場に予約する
 -
下書きと本人確認書類を持参し、公正証書化で証拠力を高めます。署名後に控えを保管します。

- 管理ルールを貼り出す
  -
通帳分離、月次報告日、領収書の保管場所を紙で明文化し、関係者と共有します。

- 任意後見の準備を並行する
  -
任意後見契約と見守り契約、死後事務委任、遺言の骨子も同時に設計して「二段構え」にします。

 

例え話

 財産管理委任は毎日の家の鍵、
任意後見は非常時の合鍵です。
日常は鍵一本で足りますが、
災害時には合鍵が命綱になります。
両方を同じキーホルダーに備えるのが合理的です。

 

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