はじめに:成年後見制度が関わった不動産取引の実例

「成年後見制度と資産運用の継続」についてお話しします。

以前、太陽光発電関連の土地取引に携わった際の実例です。
登記簿上の地主さんを探したところ、
ご本人はすでに高齢で施設に入居されており、
ご家族との連絡を通じて「法定成年後見制度」を利用していることが分かりました。
このケースでは、
成年後見人を通じて無事に土地の売買を成立させることができましたが、
ここで一つ疑問が生じました。

「もし、後見人が選任される前からご本人が資産運用(株式や投資信託など)を行っていた場合、後見人が選任された後もその運用を継続することはできるのでしょうか?」

成年後見制度と資産運用の「相性の悪さ」

最近は平均寿命が延びたことで、
体は元気でも認知症を患う方が増えています。
それに伴い、iDeCo(確定拠出年金)やNISAなどの非課税枠を利用し、
老後資金や施設入居費のために
現役時代から継続的に資産運用を行っている方も少なくありません。

しかし、結論から言うと、
資産運用と成年後見制度は非常に相性が悪いのが現状です。

成年後見人の役割は、
法律用語で「善良なる管理者の注意をもって、本人の財産を管理すること」と定められています。
この「管理」の基本方針は、
あくまで「本人の財産の現状維持」と「元本の確保」にあります。

家庭裁判所と後見人の判断基準

成年後見人は、
本人の財産を処分・運用する際、
家庭裁判所に申し立てを行い、
許可を得る必要があります。
この際、裁判所が重視するのは「本人の不利益にならないこと」です。

  1. 元本割れリスクの回避
    投資信託や株式などの「価格変動リスクがあり、元本を割り込む可能性がある商品」は、
    裁判所から運用の継続を認められないケースがほとんどです。
    たとえ過去に大きな利益が出ていたとしても、
    後見人が選任された段階で、
    これ以上の損失を出さないために
    「利益が出ているうちに即時解約する」よう指導されることが一般的です。
  2. 現状維持が原則
    逆に、含み損が出ている状態で後見人が選任された場合は、
    「これ以上損失を確定させない」という観点から、
    そのまま継続(ホールド)が認められることもありますが、
    新たに追加投資を行うことはまず認められません。
  3. 定期預金へのシフト
    後見人が選任された後の資金運用は、
    実務上、元本が保証される「定期預金」程度に限定されます。
    裁判所は、資産を積極的に増やすことよりも、
    減らさないことを最優先に考えるからです。

運用を継続したい場合の代替案:家族信託(民事信託)

資産運用を継続し、
将来の施設入居費などを積極的に作りたいと考えているのであれば、
成年後見制度が始まってからでは手遅れです。

ご本人の判断能力がしっかりしているうちに、
「家族信託(民事信託)」などの別の手法を検討しておくことが賢明です。
家族信託であれば、
あらかじめ契約で定めておくことで、
認知症発症後も受託者(家族など)が
一定の裁量を持って資産運用を継続できる可能性があります。

専門家から見た成年後見制度のハードル

専門職後見人(弁護士や司法書士など)にとっても、
成年後見業務は非常に負担が大きいものです。
裁判所への定期的な報告義務があり、
税金や決算についても厳格な処理が求められます。

特に本人が収益物件や法人の株式を持っている場合、
税理士が関与して確定申告や決算書作成を行う必要がありますが、
これら全ての支出も裁判所の監督下に置かれます。

まとめ:早めのシミュレーションが重要

認知症になってから「資産をどう運用するか」を考えるのは非常に困難です。
特にお子さんがいらっしゃらない方などの場合、
最終的に財産の受け皿がなければ、
資産は国庫に帰属することになります。

後見制度の利用が必要な状態になる前に、
まずは現在の資産内容を洗い出し、

  • 相続税はかかるのか、かかるとしたらいくらになるのか
  • 認知症になった場合、誰に管理を託すのか(家族信託の検討など)
    といったシミュレーションを専門家と一緒に行っておくことが、
    自分自身の人生の総括として、
    また残される周囲の方への責任として非常に重要です。

要約

- 結論
  -
家庭裁判所で成年後見人が選任されると、資産運用は「現状維持・元本確保」が原則。
    株式・投信など価格変動商品は継続・追加投資ともに極めて困難。
    実務上は定期預金等へシフト。

- 裁判所と後見人の判断軸
  -
善管注意義務と「本人の不利益回避」。
    利益が出ていれば解約を指導、含み損は損失確定回避のためホールド容認も、新規投資は不可が基本。

- 制度の相性
  -
成年後見制度と積極運用(NISA/iDeCo含む)は相性が悪い。
    選任後に増やすより「減らさない」管理へ。
    報告義務・許可制・税務も厳格。

- 代替策(早期の対策)
  -
判断能力が十分なうちに「家族信託(民事信託)」や「任意後見契約」を設計すれば、
   信託契約の範囲で受託者が運用継続できる余地。

- 実務示唆
  -
早期に資産棚卸
相続・認知症時シミュレーション
受託者/任意後見人候補の選定
信託設計(目的・運用方針・許容商品・監督)
公正証書化。

この動画から得られること

- 成年後見下で許される/許されない資産運用の線引き(管理行為vs変更行為)
-
家庭裁判所の許可ロジック(不利益回避・元本確保)と実務の落とし穴
-
家族信託・任意後見の使い分けと併用設計(誰が・何を・どう運用するか)
- NISA/iDeCo
等の認知症リスクと口座・受取・名義の整合の取り方
-
早期シミュレーション(相続・税・費用)と関係者合意の進め方

 

例え話

成年後見は「非常ブレーキ」に似ています。
暴走(不利益)を防ぐには有効ですが、
加速(積極運用)は想定していません。
加速したいなら、
平時にクルーズコントロール(家族信託)を設定し、
誰がどう操作するかを先に決める必要があります。

 

専門家としての付加価値

- 成年後見×資産運用の可否(目安)
  -
定期預金・公社債:概ね可(元本確保)
  -
上場株・投信・ETF:原則不可(継続/買付/スイッチングとも困難)
  -
不動産買増・建替・開発:原則不可(処分は必要性・合理性が極めて高い場合のみ)

- 家族信託の基本設計(5点)
  1)
目的:生活・医療・施設費の確保と運用継続
  2)
受託者:資質・継続性・代替条項(予備受託者)を明記

  3) 運用方針:許容資産クラス(上場株/投信/債券/不動産等)・上限・禁止行為
  4)
監督:受益者代理人/信託監督人の設置、四半期レポート
  5)
終了・承継:受益者連続、残余財産の帰属

- 任意後見の併用
  -
予備の安全網として公正証書で締結(発効は判断能力低下後)。
     信託でカバーしない生活・介護・行政手続を補完。

- 税務・費用の着眼
  -
信託税務(信託財産の帰属課税・不動産取得税の有無)、
    証券/保険の名義・受取人整合、
    後見/信託の年間コスト(報酬・司法書士・税理士)

- 体制と書式
  -
1回の家族会議、
    資産レポート様式、
    裁判所/金融機関との窓口整理、
    資産台帳(口座・ID/パス・証券・保険・不動産)

 

視聴後アクション

- 具体ステップ(5項目)
  1)
資産台帳を作成(不動産・預金・証券・保険・負債・口座/ID
  2)
認知症発症時の資金需要を試算(生活/医療/施設)し、運用方針の骨子を作る
  3)
家族信託の素案(目的・受託者・許容商品・監督・終了)を税理士/司法書士と作成
  4)
任意後見契約(公正証書)の締結と、発効要件・後見人候補の合意
  5)
年次レポート様式・家族会議の運用(四半期/年次)を決め、保険・証券の名義/受取人を整合

- 用語の簡潔説明
  -
管理行為/変更行為:資産を維持する行為(管理)と価値を変動させ得る行為(変更)。
                                      後見下では管理は可、変更は原則不可。
  -
家族信託(民事信託):受託者(家族)が信託契約に基づき資産を管理運用する仕組み。
                                        条項次第で運用継続が可能。

 

補助資料

- チェックリスト(抜粋)
  -
資産台帳の整備(口座・ID/パス・受取人)
  -
生活/医療/施設コストの見積と資金計画
  -
信託契約の主要条項(目的・受託者・運用方針・監督・終了)
  -
任意後見契約の範囲・発効条件・後見人候補
  -
税務/費用(信託・後見)の年間コスト見取り図

- テンプレ(要点)
  -
資産台帳フォーマット(デジタル/紙)
  -
家族信託 条項雛形(許容資産・レポート頻度・禁止行為)
  -
年次家族会議アジェンダ(運用報告・費用・改善点)

 

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