相続税の対象となる財産の評価は、
『財産評価基本通達』
に従って計算されることがほとんどです。
しかし、過度な節税対策を行なっていると判断された場合には、
財産評価基本通達6項、通称『総則6項』が適用され、
追徴課税処分が下される可能性があります。
今回は総則6項の概要を説明するとともに、
実際に適用された事例を基に、
相続時の追徴課税リスクを低下させる方法を説明します。

伝家の宝刀『総則6項』が適用されるケース

相続税は、亡くなった方の財産を相続する際、
その財産の価値に対して課せられる税金です。

しかし、
課税額の基準となる「財産の価値」について、
相続税法には「当該財産の取得の時(=相続時)における時価で評価されるという記載しかなく、
具体的な算出方法は定められていません。

そのため、
納税者によって異なる評価方法や算出方法を用いると、
評価額の妥当性の検証に時間がかかるほか、
同じ財産であっても評価額に差が生じ、
相続税の納税額が変わるといった不公平が生じる可能性があります
そうした事態を防ぐため、
国税庁が、相続税や贈与税を計算する際に、対象財産の価額評価基準として定めているのが『財産評価基本通達』です。

この財産評価基本通達に従うことで、
実務がスムーズになるほか、
相続税の公平性を保つことができるといったメリットがあります。

なお、「通達」とは、国税庁が税務署職員向けに対応方針をまとめた文書であり、
いわゆるマニュアルにあたります。

そのため、
財産評価基本通達をはじめとする通達自体が法的拘束力を持つことはありませんが、
税務調査なども通達に則ったかたちで実施されるため、
結果的には通達に従うことになります。

そのように、
実務上のマニュアルとして運用されている財産評価基本通達ですが
時には通達に則った評価がむずかしいケースも発生します。

財産評価基本通達には、
そのような場合のための例外規定が設けられており、
それが財産評価基本通達6項、通称『総則6項』なのです。

第1章総則の6項目目に記載されているため通称、総則6項といわれています。

この総則6項には
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」
と規定されています。

つまり、
通達に従った評価が合理的ではないと国税庁が認めた場合は、
国税庁の判断で評価を決定できるという例外規定であり、
過度な節税対策を取り締まる効果がある
とされています。

実際には、
総則6項が適用される基準が不明確であったこと、
また国税庁の一存で通達に従った評価を覆すことになるため、
適用数が少なく、『伝家の宝刀』ともいわれてきました。

追徴課税のリスクを避けるためにできること

近年、この伝家の宝刀である総則6項を適用した課税処分が、
適法と判断される事例があり、
今後の適用状況がにわかに注目されるようになりました。

きっかけになったのは、
令和4年(2022年)
4月の最高裁判所での判決です。

この判決では、
相続直前に行われた不動産購入が、
相続税の負担を減らす目的だったと認定され、
総則6項を適用し、
税務署長による更正処分の結果、
約2.
5億円の賦課決定が適法とされました。

この判決を受けて、
今後発生する同様の事例についても、
総則6項が適用される可能性が高くなったことから、
相続税の軽減を目的とした不動産投資には、
これまで以上に慎重になる必要があるといった見方が大勢を占めています。

ただし、すべての相続に対して、総則6項が適用されるわけではありません。

令和6年(2024年)1月の東京地方裁判所の判決では、
相続税の負担を回避するための積極的な行動が認められなかったとして、
非上場株式の相続税評価に係る、
総則6項の適用が否認されました。
これは裁判で総則6項の適用が認められなかった初の事例です。

総則6項の具体的な適用基準は開示されていませんが、

上記二つの事例を踏まえると、
相続税の負担を回避するための積極的な行動の有無」が適用有無の争点になると考えられます。

具体的には、
(1)近い将来に相続が発生することが予測される状況で、財産を新規に取得していないか、
(2)節税対策以外の合理的な取得理由を説明できるか、
(3)相続直後に財産を売却していないか

といった点を考慮したうえで、
総合的に判断されるという認識がよいでしょう。
このほか、相続財産の市場価格と評価額に大幅な乖離がある場合などは、
節税目的と見なされる可能性が高くなるため、注意が必要です。

基本的に総則6項は例外規定であり、
伝家の宝刀と称されるように、
実際に適用される機会は多くないと考えられます。
しかし、過度な節税対策への対抗策としての適用例も存在するため、
判断に迷った場合は専門家に相談することをおすすめします。

※本記事の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。

引用
税理士法人AtoY 
不動産業(相続)メルマガ 8月号

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