不動産を相続した際に、
明治・
大正期などの抵当権が設定されていることがあります。
大昔の抵当権の多くは抵当権者が不明で、
ほとんどの場合、
借りていたお金を完済しているのかどうかも調べようがありません
しかも、
昔の抵当権なので債権額が数十円と少額な場合もあります。

このような長期間放置された抵当権のことを『休眠担保権』(または『休眠抵当権』)と呼びます。

今回は、抵当権者が不明の際に行う休眠担保権を抹消する方法について説明します。

相続した不動産に抵当権がついていたら?

住宅ローンを組んで家を購入する場合、
金融機関によって不動産に抵当権が設定されます。
抵当権とは担保権の一種で、
住宅や土地の債務が弁済されない場合は競売にかけて売却できる権利のことであり、
債権者である金融機関が貸したお金を確実に回収するために設定します。
ローンの返済が滞った際に、
金融機関は家を差し押さえて競売にかけ、債権の回収を図ります。

しかし、
不動産によっては、債務者や支払い状況がわからない過去の抵当権がついていることがあります。
たとえば、
遺産相続で土地を相続した場合に、
明治時代や大正時代に設定された抵当権=休眠担保権がついているケースです。

休眠担保権がついている不動産は売買が制約されるので、
休眠担保権の抹消登記』を行う必要があります。

通常、抵当権などの担保権を抹消するには、担保権者(抵当権者)の協力が必要になります。

担保権の抹消登記は、
不動産の所有者と担保権者(抵当権者)
による共同申請で行うことになっているからです。
担保権者(抵当権者)の所在がわかって連絡を取ることができれば、
共同申請を依頼できます。

しかし休眠担保権は、
担保権者の所在地はもちろん、
生存しているかも不明な場合がほとんどです。

担保権者(抵当権者)が行方不明の場合、
通常は担保権の抹消登記が行えないため、
せっかく不動産を相続しても自由に売買することができません。

所有者が単独で担保権の抹消登記を行う方法

担保権者が行方不明の場合、本来は担保権の抹消登記を行えません。
しかし、
不動産の所有者が不利益を被らないために、特例によって単独で担保権の抹消登記を行うことが可能です。
その方法は以下の4つです。

(1)訴訟を起こす方法
裁判を起こし、
除権判決によって抹消登記を行う方法です。

この方法は、
担保権者が判明していながら共同申請のための協力を得られない場合などにも使われます。

ただし、
裁判に時間がかかるうえ、
借金を完済していることを証明する必要があります。
その場合は、
以下(2)~(4)の方法があります。

(2)供託利用の特例を利用する方法
不動産登記法第70条第4項に基づく特例で、
休眠担保権の登記を抹消するための供託を行う際の代表的な手続きです。

『供託』とは、
債務の代わりに金銭などを国の供託所(金銭や有価証券などを保管する所)に提出し、
管理を委ねる制度のことです。

債権の弁済期から20年が経過し、
かつ、
その期間を経過した後に債権、
その利息および債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭の供託をしたとき、
単独でも抹消登記申請を行うことができます。

(3)債権証書や完済証書を提出する方法
当時の債権証書や完済証書など、
債権を完済(=
被担保債権が消滅)した証拠を法務局に提出すれば、
不動産の所有者が単独でも抹消登記の申請を行うことができます。

この方法が最も理想的ですが、
明治時代や大正時代などかなり昔の抵当権は、
これらの書類がほとんど残っていないのが現状です。

(4)裁判所で除権決定を得る方法
裁判所に公示催告の申立てを行い、
抵当権を除権してもらう方法です。

除権決定を得ることができれば、
単独で抹消登記申請を行えます。

しかし、
数カ月単位の時間がかかるうえに、
被担保債権が消滅したことを証明する資料(領収証や消滅時効の援用通知書(配達証明書付)など)を用意しなければならず、
あまり現実的ではありません。

以上の4つが、特例によって単独で担保権の抹消登記を行う方法です。

このなかで最も実行しやすいのは(2)の供託利用の特例を利用する方法です。

明治・大正期の古い担保権であれば債権額が数十円程度のケースも多く、
現在の貨幣価値に換算する必要がないため、供託金も少額ですみます。

しかし昭和初期の担保権になると、
供託金が何百万円にもなるケースもあり、
このような場合、
担保権が抹消されないまま放置されることもありました。

やがて、
2023年4月1日に不動産登記法が改正・施行され、
供託金がなくても相続人単独で休眠担保権を抹消する登記の申請が行えるようになりました。

供託金なしでこの手続きを行える条件は、
清算人の所在が判明しない場合で、
担保権が解散した法人のもの(
個人のものなら対象外)でなければなりません。

さらに、
法人の解散後から30年、
かつ被担保債権の弁済期から30年が経過していることが条件になります。

休眠担保権のほかにも、賃借権や地上権など、休眠状態になりやすいものがあります。

いずれにしろ、
不動産に休眠担保権などの抹消したい登記がついていた場合は、
信頼できる専門家に相談するとよいでしょう。

※本記事の記載内容は、2023年6月現在の法令・情報等に基づいています。

引用
税理士法人AtoY
不動産業(登記)メルマガ06/14号

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